主人公、草間淳一郎(そうま・じゅんいちろう)は地方紙に連載を持つ駆け出しの作家だった。身の回りの世話をしてくれる女中を募集した草間のもとに現れたのは数年前、書生だった彼が家庭教師をしていた令嬢『保科雪子』であった。震災直後、一家が夜逃げ同然に姿をくらまして以来の再会であった。凛とした美しさは保ちながらも、令嬢だったことを感じさせない献身的な働きに心打たれる草間。かつてとは立場の違った共同生活が始まる。同じ頃、文壇サロンに出入りすることになった草間の前に、豪奢な銀髪の美少女が現れる。サロンの女王として振る舞う少女の正体は、かつて出会った娼婦『奈緒美』だった。震災の混乱に乗じて上流階級に潜り込んだ彼女は、その美貌と狡猾さで社交界で成り上がっていた。雪子と穏やかな交流を深めながらも、奈緒美との関係も続く。サロンで開かれる秘密倶楽部を覗いた草間は、奈緒美に雪子を蹂躙される悪夢を見るようになる。近付いてゆく悪夢と現実の距離。草間と雪子の二人に執着する奈緒美の思惑は何か。荒れ狂う情愛の前に悲劇は不可避なのか。絶望の果てに判明する真実とは。運命は物語を何度でも覆す。
『数奇な運命に結ばれた二人の少女の愛憎劇』元令嬢と元娼婦。震災を挟んで明暗入れ替わった二人の少女。二人を繋ぐ運命の糸に絡みつかれた若き作家。彼の手記を読み進める形で物語は進む。主人公草間淳一郎は清純で従順な少女、雪子を愛しながらも、悪魔的な魅力を持つ少女奈緒美に惑わされ、倒錯的な快楽の世界へと足を踏み入れる。恩讐と自己犠牲。情念の渦に呑み込まれていく男女の姿を、大正時代の帝都を舞台に淫靡且つ退廃的に描く。
保科 雪子(ほしな・ゆきこ)(CV:天間あい)
橘 奈緒美(たちばな・なおみ)(CV:柚原みう)